anu – リスタートまでの物語

今回のブランドサイトのリニューアルにあたり、オーナーの中里がテーラードウェアブランド「anu」をリスタートするまでのストーリーを綴ってみようと思います。

なぜ紳士服の世界に飛び込んだのか、なぜanuを始めたのか。まずは夢だったエジプト考古学者を諦めるお話から始まります。少し長くなりますが、お付き合いください。

諦めざるを得なかった、エジプト考古学者

長年の目標だったエジプト考古学者になるため、2012年、私は考古学専攻のある都内の大学に入学しました。現地のカイロ大学と交換留学の提携をしていた学校でした。

しかし、前年から勃発していた「アラブの春」という民主革命の影響で、カイロ大学との提携は無期限で解除、所属していたエジプト調査チームが撤退してくるなど、現地では急速に治安が悪化していました。

その後、ISという過激派組織が勢力を強め、さらに治安が悪化する困難な状況に陥りました。治安が悪く現地に行けず、命に関わることもあると家族にも大反対され、考古学者の道を諦めざるを得なくなったのです。

紳士服の世界へ

目の前から消えた目標。自分は他にいったい何が好きだっただろう、何がやりたいんだろうと暗中模索するうちに、ふと思い出したことがありました。

そもそも紳士服 が好きになったきっかけは何だったのか。ふり返ると、それはとある有名な英国諜報員の影響でした。

我が家は一家そろって「007」が好きで、物心がつかないうちから自然に映画を観ていました。おそらく初めての007は、ピアース・ブロスナン演じる「GOLDENEYE(ゴールデンアイ)」だった記憶があります。

主人公のジェームズ・ボンドが華麗に着こなすスーツ、乗りこなす高級車、女性を口説き落とすウィットな会話。classのあるラグジュアリーな世界。どれをとっても格好よく、幼心ながら「大人の世界ってこんな感じなんだな」とワクワクしたのを鮮明に覚えています。

「あぁそうだ、私は007が好きで、ラグジュアリーなスーツやクルマが好きだったんだ」とここで思い出したのです。

お話は戻りますが、実は大学に入ってすぐから始めた仕事の1つにオーダースーツの接客販売がありました。(余談ですが、他には超高級車の販売店やディーラーでも働いていました)たまたま出会ったお仕事でしたが、いま思えば既にここから紳士服の世界への扉が開いていたのかもしれません。

MEN’S EX、MEN’S CLUB、MEN’S PRECIOUS、LEONなどメンズ誌を日々読みあさり、知識や着こなし術を覚えては翌日のセールストークやコーディネート提案に盛り込む。すると面白いことに本当によく売れたのです。気づいたら紳士服の世界にすっかりハマってしまっていました。

師匠と出会い、テーラリングの世界へ

目標を失った自分の中で、紳士服の世界をもっと知りたいという気持ちが次の目標へと繋がるまでにそれほど時間はかかりませんでした。そして、ついに運命的な出会いが訪れます。

1つはテーラリング(スーツの仕立て技術)の師匠 廣川 輝雄との出会いです。きっかけは大学の考古学ゼミの友人の紹介でした。まさか考古学とテーラリングがここで繋がるなんて、世の中は何が繋がるかわからないものです。

師匠は蒲田の自身のアトリエでテーラリングを勉強したい若者に指導していて、「来てみないか」と快く提案してくれました。そこから私のテーラリングの世界への道が開かれました。

もう1つは紳士服業界の重鎮の方々との出会いでした。最初はご紹介がきっかけでしたが、色々なところに出向いて紳士服への熱い想いを伝えるうちに「まだ学生でしかも女の子なのに面白いね」と業界の名だたる大御所の方々と多くのご縁をいただけたことで、今に繋がる道が開けていきました。

職人かビジネスか、紳士服業界が抱える課題

テーラリングを学びながら紳士服の知見を深めるにつれ、「職人の高齢化」「職人の工賃が低い、賃金が低い」「若手が続かなくて技術が継承されない」という業界が抱える問題について考えるようになりました。

「どうしたらテーラリング技術が若い世代に受け継がれていくのか」を考え抜いた結果、「職人の仕事を増やし賃金を上げることができれば技術は継承されていくのではないか」「それにはもっとテーラードの服を着る人を増やしていくべきではないか」という仮説が自分の中に生まれたのです。

そこから「自分の役目は職人になることではなく、着る人を増やして職人の仕事を作ることだ」と切り替え、その解決策の1つとしてまずは20代後半で自分のブランドをスタートさせることを目標にビジネスの道を進むことを決断しました。

テーラードウェアブランド「anu」の設立

大学卒業後の数年は個人事業主として、WEB制作やコラム執筆などビジネスの知見やスキルを身につけリソースを増やすことに集中。2019年7月にWEBとアパレルの事業を展開する「Laaa株式会社」を創業しました。

同年11月にテーラードウェアブランド「anu(アヌ)」をプレリリース。そして2020年2月にいよいよ正式リリースを迎えました。

「anu」という名前は古代メソポタミアの最高神「Anu」から名付けました。天空の神・星の神でもあります。ちなみに、会社名の「Laaa(ラア)」は古代エジプトの最高神「Ra」が由来です。Raは太陽神でもあります。ともに古代の神々の名前をつける形となりました。

「なぜanuなの?」「anuってどういう意味?」とよく聞かれるのですが、実は冒頭の考古学のお話がここに繋がります。

予期せず大きく立ちはだかった、新型コロナウイルス

正式リリースを迎えた数日後から、VIPのお客様から少しずつ予約のキャンセルが相次ぐようになりました。中国・武漢で新型コロナウイルスの感染拡大が始まった影響でした。

4月には日本でもロックダウンとなり、anuはリリース直後から事実上の休業状態となります。幸い、会社自体にはWEB事業があったため早い段階でリソースを切り替えることができ、anuを完全にクローズする事態を避けられました。

お客様をはじめ、取引先様の皆さまにいただいた温かいご配慮・ご支援には大変助けられました。この場を借りて感謝申し上げます。

再始動、anuが見据える未来

2年の歳月を経て、2022年5月29日(幸服の日)にanuはリスタートを切ることができました。サロンの場所も心機一転し、以前より生地の種類やスタイリングのアドバイスなどご提案の幅も増えております。

今月9月より秋冬シーズンがスタートし、今回のWEBリニューアルと共に本格的にリスタートとなります。

anuが見据える未来は、すべての人が”自分らしさ”を愛し、自身のstyleを楽しむフラットな世界。

その”自分らしさ”に色を添えるお手伝いをするのがanuです。セクシャリティや年齢は全く関係ありません。anuが扱うのは「紳士服」や「メンズスーツ」「レディーススーツ」と呼ばれる形の服ですが、誰が何を着ても構わないのです。

さらにその延長線上に、着る人が増えて職人の仕事が増える未来があることを理想として、目の前の一歩を進めていきます。

柔軟に、変化を恐れず、誇りを持ち、自分らしさを大切に。anuの挑戦は始まったばかりです。

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